アガサ・クリスティと一対一の気楽な同等の時間。それが楽しい。

前回、突っこみどころだらけの「スタイルズ荘の怪事件」、よくまあ本になったもんだなどとナマイキにも書きましたが、コレ私のホンネです。勝手ですが、そう感じた人ってけっこういるんじゃないかと思うんですよね。声を上げないだけで。

今回こんなふうに言えて、胸がスッとしました。読んだのは大分前だったので、ずいぶん長いことあの作品に対する不満がくすぶっていたんです。
デヴィッド・スーシェ版で映像化されてたのを見た時も、突っこみどころそのままでいいのか!と思ったワケですよ。まあ、変えちゃうワケにはいかない突っこみどころではありますけど……。

 でも、その映像化された「スタイルズ荘」、すんごくおもしろかった。「ゴルフ場の殺人」も。再放送されると、ほとんど見てました。

 そして、僕としては失敗作じゃないのか?と思ってた作品なのにちゃんと”本”になっていたわけが理解った。

 理由は、一も二もなくおもしろいから。

 小説として、読みものとして、とにかくまずおもしろい!あの作品世界が魅力なんです。そのことこそすべてです。おもしろくなかったら読まない。読めない。どんな斬新なトリックもへったくれもない。おもしろくなきゃつまんない!当たり前ですけど、そうなんです!

ミステリーばかりじゃなく、僕はつまらないと感じたら、どんな本でも途中で読むのをやめてしまいます。そして作者に肚をたてる。おもしろくねーじゃねえか!って。そのあとそんな本を買ってしまった自分にも肚をたてます。つまらない本だってどうして見抜けなかったんだと、ちょっとの間クヨクヨ考える。それって、それ自体ミステリーですよね。作者のミスリードにまんまと引っかかった未熟な読者ってことです。狭量な読者でもあるかも。だからこそ、おもしろいと思った作品に巡りあうと、その作家のほかの作品も読みたくなる。その代表がクリスティ。彼女が多作で良かったです。

 なんのかんのと文句を言いながらも―― そうなんです。気にいった作家はまるで古くからの友だちみたいに思えてきて頭の中で会話しちゃったりするんです。ほぼ一方通行ですけど。”コリャないだろ、アガサ……”とか。自称いっぱしの読者なら分かりますよね。そういうの―― 楽しい時間を持つことができます。

 その時間は作者と共有している時間。一対一の気楽な同等の時間だと思ってます。しかもずっと続く。その作品のことを考えるだけでいい。作者が大昔の人だろうと繋がれるってとこがいい。

 人の好みは様々だから誰もがクリスティを好きになるわけじゃないけど、僕は魅了された。今も醒めてないし、醒めそうにもない。頭の中での会話だって続けてる。アガサと呼んでます。皆さんは?

突っこみどころ云々のことは、また今度ってことで。
(猫山)