二重の手掛かりでのポワロとヴェラの件についてアガサ本人に訊いてみた。(脳内で)

 そしてそして、マープルさんが”火曜ナイトクラブ”なら、ポワロ氏の短編集は”ヘラクレスの冒険”ですね。神話に倣って十二のエピソードから成るわけだけど、サイコーにいいのは三話目”アルカディアの鹿”美しい恋物語に仕上げてくれてます。

グッジョブ、アガサ!

 テレビドラマでもこの三話目を中心に据えて創ってましたよね。いいと思うものはみんな同じなんですね。ドラマの導入部としても最適な原作ですし。

 しかしです。目をつぶるわけにいかないのがヴェラ・ロサコフ伯爵夫人。彼女はあんな気取りのキツい、イヤミな女ではない!

 伯爵婦人なんぞと名乗ってますがホントかどうか、アヤシイもんです。元々は”二重の手掛かり”という短編に初めて登場
してきたのですが――

そうそう、この短編もよく覚えてます。それもひとえに彼女のキャラゆえ。

話自体はまったくつまらない。とにかくこのヴェラさんの存在感たるや圧倒的。魅力というより迫力でドーンと迫ってくるスゴい女。腰の据わった豪傑なんです。

キャラだけじゃなくて、ボディのほうも大柄で態度もデカい。悪人の部類に入るのに悪びれないで堂々としてる。
いわゆる姐御肌。誰もがファンになってしまうキャラなのです。
ポワロなんてイチコロでした。そもそもポワロにはベルギー警察に勤務していた頃にヴィルジニーとかいう名前の片想いの女性がいたはずなんですよ。親友と結婚したために、ポワロにとっての”永遠の女性”となった設定なのです。

イメージとしてはだいぶロサコフさんとは異なる女性のはずなのですが――。

 そのヴィルジニーさんを差しおいて、タイプだって違うにもかかわらず、ポワロはヴェラにメロメロ。ヴェラの言うことなら、どんなことでもホイホイときく。どんな理不尽なことも喜々として従ってしまうのです。いいようにコキ使われてます。

 アガサは明確に書いてませんが、僕はこの”二重の手掛かり”で登場した時にポワロがひと目ボレしちゃったんだとニラんでます。もっと言えば、アガサもかなり気にいったキャラてことです。時々アガサ本人にそう言って水を向けてみるんですけど、例によってアガサはニヤニヤしてるだけ。でも肯定のニヤニヤか否定のそれかは、
もう長いつきあいなので分かります。

間違いなく、イエス。

 でなきゃ”ヘラクレスの冒険”の最終章”ケロベロスの門”でしたっけ?でわざわざヴェラをヒロインにしたりしませんよ。

 この章では”地獄”というナイトクラブのオーナーとしての登場でしたけど、澁澤龍彦の本を先日読みかえしていたら、当時パリに”地獄”という名の有名なクラブが本当にあったということでした。

余計なウンチク、すいません。

 ともかく、ヴェラ・ロサコフとして出すんなら堂々たる体格のデーンと構えた女性でなきゃいけませんぞ。蚊の鳴くような声をしたはかなげな女なんてお呼びじゃない。台風の中であっても微動だにせず、強烈な光を投げ続ける灯台のような女性でないとヴェラじゃない!

 実際”アルカディアの鹿”の中で、ポワロが称賛するもののひとつが肉体美だと書いてあります。この章に登場してきた若者を見た時の記述ですが、ポワロが気にいったということはアガサが気にいったということ。ヴェラもきっとグラマラスなはずです。

 そうだ!それこそジェシカのランズベリー。マープルさんじゃなくてこっちだったらいんじゃね?…ギリ。