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私とクリスティ - 猫山月彦のミニエッセイ

ついに電子書籍化な…

以前にも書きましたが、アガサの「スタイルズ荘の怪事件」は、ミステリーとしては絶対に失敗作だと思います。

あれはポワロが初めて登場する長編小説なので、おそらくアガサがこういう事件をこういうヒントでポワロに解決させたら、すごくおもしろい作品になるだろう、といった思いこみで突っ走った結果スベってしまった小説だろうとしか思えないのです。

実際、キマレばすっごくカッコイイ作品になったと思われますが、どう見てもこの登場人物がこんな行動とる必要ないだろう!といったシーンの連続——エエ、一ヶ所だけではない——なのですよ。

ポワロもまだキャラが落ちついていないせいか、まるでホームズのマネゴトみたいなことをさせちゃってます。まあ、見ようによってはそれはそれで一興と言えなくもないですが、ともかくヒドイ。

イエ、アラ探しをするつもりで読んだのではありませんよ。偶然手にとった「アクロイド殺し」の目がくらむようなドンデン返しにノックアウトされて、タイトルに引かれて「メソポタミアの殺人」へと進んで、すっかりアガサの虜となって読んだ何冊目かの作品でした。

もうワクワクしながら読みだしたのに、エッ?!なんだコレ?というカンジで、この人の行動ヘンでしょ?!となったワケです。

そしてその、これってオカシイよね?という疑問符は頭の中に染みついてしまい「スタイルズ荘」は逆に忘れられない一作となってしまいました。

ただどういう作品にしろ、ヒラメキというか、降りてくるというか、そういったアイデアがあってこそ生まれてくるものだと思いますから、誰だって何か書こうとしている人はコレというアイデアが浮かんだら飛びつきますよね。

私の「ドミノへ」もその点は同じ。ヒラメいたアイデアを育て、発展させて、こういうああして、なんて具合に考えて出来上がった作品です。

そしてその際、この「スタイルズ荘」のことが常にプレッシャーとしてありました。アガサのような人でさえ、アイデアで猛進すると単純な矛盾を見落としてしまう。だったら自分など、見落としなしで済むワケがない!といった脅迫観念にさいなまれていたのです。

しかし、このプレッシャーはムダにはなりませんでした。途中、そういう思いで読み返してみると、そういう矛盾点がほんとにあったんどえす。

信じられないくらい単純なミスで、その単純さ故に落ちこみましたが、そんなことでメゲてはいられないと持ち直した次第であります。

アガサとのいつもの妄想会話の中で、もちろん私は「スタイルズ荘」における矛盾をはっきり指摘しております。なにしろ我々はダチですから。

それに対するアガサの返事は

「だから何?」

マジ強い女なんです。更に、

「ドミノへ、にはないの?」

あるの分かってて言ってるんです。ハイ、実はまだ1ヶ所ありまして……

イエ、ごくササイなことなんですけどね。

電子書籍化に際し、直してみました。本を読んでくださった方でもどこをどう直したのかは分からないと思います。

そのほかにも、もうちょっと書いておきたかったな、と思っていた部分は加筆して、より完成度をアップさせてありますのでどうかお楽しみに。

尚、「スタイルズ荘」については、最近になって気がついたことがあります。外でもないあんな矛盾があるのにどうして人気があるんだ?という疑問の答です。

それは、それでもおもしろいから。ストーリーそのものがおもしろいからなんですね、きっと。

「おもしろい」ってことばは最強。ご老公さまの印籠。そのことばの前にはすべてがひれ伏すのであります。

アガサの

「だから何?」

は正しかったワケです。ホント、かなわないっスよね。

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夏の高知は四万十川…

夏の高知は四万十川。


テレビやウェブの「夏のおでかけ特集」みたいなものでよく目にするスポットです。


日本最後の清流、というキャッチコピーもなんとなく耳に残っていますね。

猫山と私、書生の二人ミステリ小説ドミノへツアー御一行は、お遍路第三弾中の身。

しかし……

「せっかくお遍路で近くに行くのだからぜひとも寄ろう!」


と意見が一致しました。

そして、思いっきり四万十川を満喫するべく、カヌー体験をしてきましたよ。

前進、バック、回転、転覆したときの対処方法など基本的な講習を受けたあと、インストラクターの先生のあとについて約4キロの川下りです。

この日は総勢9名の参加。

思い通りに動かないカヌーに四苦八苦しながらも、しばらく漕いでるとなんとなく思う方向へ進めるようになってきました。

そうは言っても私は漕ぐことに精一杯で、景色を見る余裕がありません。

初めてのカヌーってこんなにきついの?!

ゆったりと川にかかる橋を見上げながら、やっぱり川は涼しいですね〜などと言いつつ楽しむカヌー。


スーっと川面を漂い、ゴールに近づくごとに、まだ終わりたくない〜延長〜、などと軽口を叩くカヌー。

想像してたカヌーと違う……

先生についていくのに必死で必死で、終わってみると体中の筋肉がパキパキでした。

これは全身運動だ……

そう思った初めてのカヌー体験でした。

途中一人だけ沈むし。

もう一回やりたいか?と問われると、返事は

イエス!

きつさの中にも達成感はあり、そして漕いでるとやっぱり思う通りに漕げるようになるんですよ。

次回はきっと、もっと余裕を持って楽しめることでしょう。

カヌーのあとは沈下橋見学です。

観光パンフレットや旅行雑誌でよく見る光景が目の前に広がります。

思わず写真を撮りたくなる景色ですね。

なかなかの眺めですよ、これは。

そもそも沈下橋は、周辺に住む方々の生活道とのこと。

ですから、観光用には橋のたもとに駐車場が整備されているところが多いようです。

我々の他にも数組の観光客がおり、夢中でシャッターを切っております。

絵に描いた夏が目の前に広がります。

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四国八十八か所巡り…

前回の四国八十八ヶ所巡り第二弾から1ヶ月。


我々ミステリ小説ドミノへ御一行様(猫山と私、書生の二人ですが笑)は、お遍路第三弾へと参りました。

今回は3泊4日で高知の中心部から西へと向かいます。


三度目ということで着々と距離を伸ばしている実感が湧いてきます。

足摺岬を回って、いよいよ高知から愛媛へ!と思ってたところ地図を眺めていると……

清流で有名な

「四万十川」

があるではないですか✨

これは行くしかない!というわけで寄り道してきましたよ。

その様子はまた後日

四国南部はお寺同士の距離が開くことと、夏の炎天下ということもありレンタカーを借りての車遍路となります。

そしてその相棒に選んだのは……

ジムニー!

納車1年待ちという人気車です。


いつもの乗用車とは少々雰囲気を変えて四駆のコイツをレンタルしました。

そうは言っても車遍路の我々は四駆モードで走ることはありません。基本アスファルトの道だけですからね。

しかし、今回に限っては

「ジムニーにして良かった〜!」という場面がありまして……
(その様子もまた後日)

今回お参りしたお寺は次の通りです。

第二十九番札所 摩尼山 宝蔵院 国分寺


第三十番札所 百々山 東明院 善楽寺


第三十五番札所 醫王山 鏡池院 清瀧寺


第三十六番札所 独鈷山 伊舎那院 青龍寺


第三十七番札所 藤井山 五智院 岩本寺

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読める?私は読めま…

実は我々のお遍路歩き(ほぼ車ですが)は寄り道(道草?)も盛りだくさんなんですよ💨

先日敢行した第二弾では、こちらの13か所を巡りました。

さらに、その合間や前後に寄り道をしておりまして、その一つが今回ご紹介の

「大歩危・小歩危」です。

読めますか?私は読めませんでした(笑)

「おおぼけ・こぼけ」

と読むそうです。

四国山地のど真ん中にあり、吉野川中流域の深い谷です。

お遍路のルートからはかなりそれますが、車移動ということもあり立ち寄ってみましたよ。

「大股で歩くと危ない、小股で歩いても危ない」

という意味からその名がついたという大歩危・小歩危。(諸説あるようです)

なんと天然記念物なんです!

このあたりはかなりの断崖で険しい一帯です💦

今でこそ舗装された道路が通っていますが、たしかにこれでは大股でも小股でもどっちで歩いても危険ですね……

我々は危険を避けて当然歩かずに(笑)、大歩危峡まんなかさんが運営する、大歩危峡観光遊覧船に乗って往復4キロ、30分のクルーズです。

予約はいらず、当日直接行って利用できます。

9時始発、20分〜30分間隔くらいで出ているようですが、お客さんが多いともうちょっと頻繁に出るのかな?

梅雨明け直後のこの日の天気はかなりよくて暑い🥵

一方で、程よいスピードの遊覧船は風が涼しい!

船頭さんのガイドも大変勉強になります。

隣の小歩危と合わせて巡ると、特徴的な斜め巨岩の意味がよく分かるとか……。

(我々は小歩危には行ってないのです💦)

そんな話を聞きながら、気持ちよくて少々ウトウトしたのは内緒です(笑)

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四国八十八ヶ所巡り…

ミステリ小説ドミノへ恒例のツアー✨
前回の四国八十八ヶ所巡り第一弾から1ヶ月。

第二弾となる今回は、4泊5日で徳島は十八番札所の恩山寺をスタートし、いよいよ高知入りを果たします。


そして三十二番札所の禅師峰寺までをお参りしてきました。

しかし、二十九番札所国分寺と三十番札所の善楽寺を飛ばしてしまうというアクシンデントが💦

前回は徒歩&車でしたが、今回は全編車遍路となりました。

「車?楽でしょう?」

とお思いですか?

私も当初はそう思っておりました。それがやってみるとよく分かる。

これがなかなかのものでして。

高知の札所(お寺)はお山の上にあることが多く、階段の連続なのです💦

乗っては降りそして登り、乗っては降りそして登り……

冷房の聞いた車内と酷暑の外を行き来するのも案外体にこたえるのですよ😅

(贅沢な悩み?w)

中年の私ですらそう思いますから、高齢の方や体の不自由な方などは、よりきつさを感じるのではないでしょうか。

それぞれのお遍路があるのだな、としみじみ思います。

そうは言ってもこの暑さ。

荷物も置いて身軽でお参りでき、そして涼しさも得られる車に感謝しております🚗

お参りしたお寺は次の通りです。

第十八番札所 母養山 宝樹院 恩山寺


第十九番札所 橋池山 摩尼院 立江寺


第二十番札所 霊鷲山 宝珠院 鶴林寺


第二十一番札所 舎心山 常住院 太龍寺


第二十二番札所 白水山 医王院 平等寺


第二十三番札所 医王山 無量寿院 薬王寺


第二十四番札所 室戸山 明星院 最御崎寺


 第二十五番札所 宝珠山 真言院 津照寺


第二十六番札所 龍頭山 光明院 金剛頂寺


第二十七番札所 竹林山 地蔵院 神峯寺


第二十八番札所 法界山 高照院 大日寺


第三十一番札所 五台山 金色院 竹林寺


第三十二番札所 八葉山 求聞持院 禅師峰寺

今回は13か所。
前回は17か所ですから、合計30か所をお参りした形となります。

残り58か所。

修行の道は続きます——

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四国八十八ヶ所巡り…

十七番札所井戸寺へのお参りを終え、帰途は徳島空港へ。

徳島県内のお遍路は町の中や山あいに集中しており、今回の行程では海へは寄っていない我々。

「そういえば、海を見てない……?」

ということで、急遽ドライブ決定です🚗

徳島県道41号を通って鳴門市側の瀬戸内海へ。卯辰峠を超えていきます。

「卯辰越」と呼ばれる道だそうで(wikipedia情報)、曲がりくねってなかなかの峠道です💦

予想外の道にアワアワ運転していると(阿波だけに笑)、逆方向からお遍路さんが歩いてくるではないですか。

おそらく逆打ち中の方で、八十八番札所の大窪寺から一番札所の霊山寺へ向かう途中なのかな、などと想像しながら心の中で応援しました🙇

歩き遍路をはじめとする人力のお遍路さんは、峠越えも当然人力なんですよね。改めて尊敬します。

さて向かった先は鳴門市の「きたなだ海の駅」

お土産も買おうと「JF北灘さかな市」に立ち寄りました。

店内には海産物やその加工品など、所狭しと土産物が盛りだくさん。

テンション上がりますね✨

そんな中、我々が目につけたのは

美味しそうな活貝です🦪

焼いてもらえるとのことなので、外で待ってましたら……

ドーン!!

岡持ちで現れる堂々たる貝✨

岩がき、大あさり、白はまぐりを注文しました。

店先のガーデンテーブルでいただきます。

身がたっぷり詰まっていてどれも美味しい。

これはうちの猫山が「コレとコレと…」と指名したもの。確かな目利きでした🙇

絶妙な火加減で身は固くならず、旨みも濃くいくらでも食べたくなります。

思い出してもよだれが……

徳島の市街地や山あいのお寺さんを、時には歩いて時には車でお参りした今回のお遍路第一弾の旅。

「こういう楽しみを味わえるのも車遍路の良さだな〜🚙」

と感じた我々なのでした。

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四国八十八ヶ所巡り…

お遍路歩きでは宿坊にも泊まってみたい!

計画を立てていると、幸いにも空室があるではないですか。

これは泊まるしかない……!

ルートを工夫して、第六番札所安楽寺と、第七番札所十楽寺光明会館でそれぞれ一泊ずつしました。

結論からいうとどちらもよかった。

自由参加のお勤めにも参加して大変よい経験ができました。

第六番札所安楽寺宿坊

万病に効果のある霊泉が湧き出ていたことから弘法大師様が名付けたという「温泉山 安楽寺」✨

じんわりと疲れが癒やされる温泉が大変気持ちよかったです。

薬師如来様をご本尊として、さらに弘法大師様ゆかりの湯と聞くと、効き目も倍増ですね。

夕食後には勤行体験に参加しました。お経をお唱えした後は「くす供養」と呼ばれる、この地に伝わるご先祖様供養を体験します。

この時間が大変よかった。「観光客向けの体験」とあなどることなかれ。

ぜひ参加してその素晴らしさに触れていただきたいと思います。

第十番札所十楽寺宿坊光明会館

こちらの外観はビジネスホテルといった趣です。
内装も見覚えのあるつくりなので、ある意味ホッとするかも。

しかしお寺の敷地の中にあるので、朝起きてカーテンを開けた時の景色のなんと清々しいこと。

思わず深呼吸したくなります。

境内を少々散歩して清らかな空気に触れたあとは、朝食前のお勤めに参加しました。こちらも自由です。

今日も1日頑張るぞ、というような晴れやかな気持ちになりますね。

朝というのは慌ただしいのものだ、と疑うことなく思っていましたが、このような落ち着いた時間を持つのは現代人こそ必要なのでは?と思いました。

泊まったお部屋はシャワールーム、トイレ完備です。そして疲れた体にうれしい大浴場も!足を伸ばして十分リラックスできました。

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四国八十八ヶ所巡り…

日本の滝100選に選ばれた名瀑が比較的近くにある、ということが分かり立ち寄ってきました。

なかなかの絶景です。

メインである雨乞いの滝は駐車場から約700mほどでしょうか。上り坂が続きます。途中階段もありますが想像していたよりは上りごたえがありました。

しかし、途中にはうぐいす滝、不動滝、地獄淵、もみじ滝、観音滝と、次々に出現。

これらも見て楽しめるので、立ち止まりながらゆっくり行けば問題はありません。

ただし道が濡れてたりするので靴のほうがいいですね。

駐車場からだいたい20分、ゆっくり景色を楽しみながら30分といったところで、東屋が見えたら到着です。

ぐいっと、岩陰の先にもう3歩進むと素晴らしい眺めに圧倒されます。

直線的な方が雄滝で階段状のほうが雌滝です。

ミニトレッキングがその眺めをさらに際立たせてくれました✨

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四国八十八ヶ所巡り…

ミステリ小説ドミノへ恒例のツアー✨
今回は四国八十八か所巡りです。

第一弾は、4泊5日で徳島へ行ってきました。

お遍路スタートの地は「発心の道場」ということで徒歩&車&moreでお遍路スタートです

今回お参りした札所はこちらです。

一番札所 竺和山 一乗院 霊山寺


二番札所 日照山 無量寿院 極楽寺


三番札所 亀光山 釈迦院 金泉寺


四番札所 黒巌山 遍照院 大日寺


五番札所 無尽山 荘厳院 地蔵寺


六番札所 温泉山 瑠璃光院 安楽寺


七番札所 光明山 蓮華院 十楽寺


八番札所 普明山 真光院 熊谷寺


九番札所 正覚山 菩提院 法輪寺


十番札所 得度山 灌頂院 切幡寺


十一番札所 金剛山 一乗院 藤井寺


十二番札所 摩廬山 正寿院 焼山寺


十三番札所 大栗山 花蔵院 大日寺


十四番札所 盛寿山 延命院 常楽寺


十五番札所 薬王山 金色院 國分寺


十六番札所 光耀山 千手院 観音寺


十七番札所 瑠璃山 真福院 井戸寺

88か所中17か所を巡りました。

残り71か所。結構周ったつもりでありますが、こうしてみるとまだまだスタートラインですね。

私たちのお遍路道は続きます🐾

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みる景色がない分、…

陽はサンサンと照り、しかしキリッと冷たい風が気持ちよくて退屈に思うことはなかった。

この宿場町の建物のほとんどは昭和のころに建てられた風貌で、古さはあるが現代のものである。
往時の様子を残しているのは道そのものといくつかの建物だけで、目玉の何かがあるわけではない。

しかし街道の名を彫った灯籠や、観光案内板、屋号、火の用心を謳った玄関先のお札。

役割を終えてから何百年もたつが生きている宿場町だと思った。
来た人を出迎えそして見送る姿、そして街道のそばに暮らしに。

先程のおじさんの、あきらかに住民でない僕に対する「ああ、またか」と驚かない様子。
そして道案内には短くて、しかし歩き旅には一番ありがたい一言がよりそう思わせる。

ここはハリボテの観光地ではないのだ、とひらめいた時、江戸時代の旅人と歩いている気分になった。

勝手に顔がにやけてくる。

これが私が街道歩きが好きな理由だ。ひとりでありながら、この瞬間だけはグループ旅行。
ポケ〜っと口を半開きで空想しても自由である。

さて、宿場町が終わるとアスファルトの国道である。

都会のように人がいるわけではない集落で、道に出ればひとけも名残もさらにない。

次の宿場町まで約10キロ。

地元の人は車移動が当たり前で、大型トラックが頻繁に行き交うだけである。

人がいない前提でこちらは歩いているから、時折人影をみるとドキッとする。

何より鼻歌が恥ずかしい。
鼻歌ならまだしも、声を出してうたっている時もあるがどっちにしても恥ずかしい瞬間は急に訪れる。

彼らは工事現場の交通誘導員か、並行して走る線路の保守係だ。

歩道は途切れ途切れで、歩く人をあきらかに想定しておらずでこぼこのアスファルトである。

「怪しくないです、旅の途中ですから」という意味で会釈ぐらいはするが、取り立ててあいさつをしたりましてや会話などしない。

そうは言っても限られた人との出会いは妄想チャンス。

足元も格好もこちらはアウトドア風であちらは作業服。

どちらも野外活動中という共通項がひねり出る。

一人旅が生む勝手な仲間意識が、速度超過ですれ違うトラックの怖さを忘れさせてくれる。

今日は平日、向こうは仕事でこちらはレジャー中という現実が、空想を瞬く間に終わらせる。

一度だけ「お、人か」という反応をされることがあった。

「トラック通るから気をつけて、いってらっしゃい」

街道歩きを思い出させてくれる一言に、江戸時代の旅人もそうやって歩いたのかなとまた想像する。